先端技術大賞の歴代受賞者と大臣賞に選ばれた技術テーマを徹底解説

※みどりテック通信は、地球環境大賞・独創性を拓く 先端技術大賞・日本バイオベンチャー大賞の主催者とは関係のない、独立したメディアです。各賞の公式情報は、主催者の発表をご確認ください。
朝のニュースを流し読みしていると、企業や大学のお知らせに「先端技術大賞 経済産業大臣賞を受賞」という一文を見かけることがあります。立派な賞らしいことはわかります。それでも、ほかにどんな人や組織が選ばれてきたのかまでは、すぐには思い浮かばないものです。
この記事では、産経新聞社が主催する「独創性を拓く 先端技術大賞」について、公開情報で確認できる歴代の主要受賞者を回ごとに整理しました。あわせて、受賞テーマから見える技術の流れも読み解きます。
みどりテック通信は、この賞の運営とは関係のない外部のメディアです。編集担当の緑川も、環境エネルギー分野の技術職を経て取材を続けている「外から賞を眺める一読者」として書いています。
この記事のポイント
- 最優秀賞は学生部門が文部科学大臣賞、社会人部門が経済産業大臣賞です
- この記事で詳しく取り上げる第38回では、6Gの無線機とAIの映像解析が最優秀賞に選ばれました
- 第16回から現在の名称になり、企業の若手研究者も表彰の対象に加わりました
- 受賞テーマは通信、AI、半導体、医工学、材料、薬学まで幅広い分野に及びます
- 歴代の一覧は回ごとの公式ページに分かれていて、年度は各ページの表記で確かめるのが確実です
先端技術大賞はどんな賞か

正式名称は「独創性を拓く 先端技術大賞」です。主催は産経新聞社で、科学技術創造立国の実現をめざし、独創的な先端技術の研究と開発をたたえる表彰制度とされています。
この賞には、研究の段階にある学生と、企業で実用化に取り組む技術者の両方が並びます。私が面白いと感じているのはこの点です。同じ年の受賞者を見比べるだけで、大学の研究室と企業の開発現場のそれぞれで、何が熱いのかが見えてきます。
賞の成り立ちや選考の考え方は先端技術大賞とはで整理しています。ここからは受賞者に絞って話を進めます。
部門と賞の種類
受賞者一覧を読むには、まず賞の種類を押さえておくのが近道です。同じ「受賞」でも、どの賞かによって位置づけが変わります。
| 部門 | 最優秀賞 | そのほかの主な賞 |
|---|---|---|
| 学生部門 | 文部科学大臣賞 | フジテレビジョン賞、ニッポン放送賞など |
| 社会人部門(過去には企業・産学部門と表記) | 経済産業大臣賞 | 産経新聞社賞、特別賞など |
大臣名の付いた賞が最優秀にあたります。文部科学大臣賞と経済産業大臣賞が、それぞれの部門の頂点です。
第16回の名称変更で何が変わったか
第16回から、賞は現在の「独創性を拓く 先端技術大賞」という名前になりました。
このとき、企業の若手研究者や技術者も表彰の対象に加わっています。科学技術創造立国の実現には、産学官の連携と若い技術者の育成が欠かせないという考えによるものとされます。
産学官連携とは、企業(産)、大学(学)、国や公的機関(官)が手を組んで研究を進めることです。後で紹介する第37回のように、大学と複数の企業が共同で受賞する例は、この考え方をそのまま体現していると言えます。
歴代の主要受賞者を回ごとに整理

ここでは、公式の受賞者ページや大学、企業、報道で確かめられた回を新しい順に並べます。
先にお断りしておきます。この表は全回の一覧ではなく、筆者が受賞者を確認できた回に限っています。第1回から第28回、第30回、第32回から第34回は載せていません。第36回の学生部門の最優秀賞は名前を確かめられなかったため空欄にしています。
| 回(年度) | 文部科学大臣賞(学生部門) | 経済産業大臣賞(社会人部門) | そのほかの賞 |
|---|---|---|---|
| 第38回(2025年度) | 山崎雄大さん(東京科学大学 工学院 電気電子系) | 劉健全さんら(日本電気株式会社) | ほかに6件の研究が顕彰と報道 |
| 第37回(2024年度) | 高田真悟さん(東京大学大学院 博士課程3年) | 横浜国立大学、株式会社ディスコ、東レエンジニアリング株式会社の共同チーム | 特別賞に堀武志講師ら(東京医科歯科大学、関東化学株式会社) |
| 第36回(2023年度) | 未確認 | 株式会社ADEKA | 未確認 |
| 第35回(2022年度) | 李恒さん(東京工業大学 工学院) | 田仲正弘さんら(情報通信研究機構) | フジテレビジョン賞に森竣祐さん、ニッポン放送賞に吉田光輝さん、産経新聞社賞に本間雅登さんら(東レ) |
| 第31回(2017年度) | 佐野航季さん(東京大学大学院 工学系研究科) | 先崎健太さんら(日本電気株式会社) | 各部門に優秀賞あり |
| 第29回(2015年度) | 乘本裕明さん(東京大学大学院 薬学系研究科) | 田中智子さんら(江崎グリコ株式会社) | 当時は企業・産学部門と表記 |
回数から年度を逆算しない
第31回が2017年度、第35回が2022年度と表記されているように、回数の差と年度の差は必ずしも一致しません。何年度の受賞かを確かめたいときは、計算に頼らず、各回の公式ページの表記を見てください。
筆者の失敗談
以前、取材メモを作るときに「第◯回なら◯年度だろう」と引き算で年度を書き込み、あとで公式ページと照らし合わせたら合わなかったことがあります。それからは、回数と年度を必ずセットで写すようにしています。小さなことですが、引用するときの信頼に直結します。
第38回(2025年度)
学生部門の文部科学大臣賞は、東京科学大学 工学院 電気電子系 電気電子コースの博士後期課程に在籍する山崎雄大さんです。テーマは、第6世代(6G)以降の移動通信システムに対応した無線機の超小型化でした。
6Gとは、いま普及している5Gの次の世代にあたる通信規格のことです。通信が速く大容量になるほど、それを扱う無線機をどこまで小さくできるかが課題になります。
社会人部門の経済産業大臣賞は、日本電気株式会社(NEC)の劉健全さん(ビジュアルインテリジェンス研究所ディレクター)、船田純一さんらのチームが受けました。長時間の映像から、使う目的に合った短い動画と説明文を自動で作る技術です。
何時間もの映像を人が見返すのは大変です。必要な場面だけを切り出して文章まで添えてくれるなら、手間を大きく減らせます。研究の詳細はNECの受賞紹介ページで公開されています。
受賞者の発表は2025年6月18日、表彰式は7月14日ごろに行われたと報じられています。
第37回(2024年度)
経済産業大臣賞は、横浜国立大学、株式会社ディスコ、東レエンジニアリング株式会社の共同チームです。テーマは「ハイブリッド接合の開発と省電力チップレット集積技術への適用」でした。
チップレットとは、ひとつの大きな半導体チップを作る代わりに、役割ごとの小さなチップを組み合わせて一体にする考え方です。ハイブリッド接合は、そのチップ同士をつなぐ技術にあたります。レゴブロックをいかにすき間なく、確実につなぐかという話をイメージすると近いかもしれません。
社会人部門の特別賞には、東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 診断治療システム医工学分野の堀武志講師(代表)と梶弘和教授、関東化学株式会社の塚田海斗さんと山口宏之さんが選ばれています。研究の具体的な中身は、大学側の発表で確認するのが確実です。
編集部メモ
環境エネルギーの仕事をしていた身としては、テーマ名の「省電力」という言葉に目が止まりました。半導体の性能の話は速さに注目が集まりがちです。でも、つなぎ方の工夫が消費電力の削減に向かっている点は、脱炭素の視点から見ても見逃せないと感じています。
第36回(2023年度)
化学メーカーの株式会社ADEKAが、経済産業大臣賞を受賞しています。材料や化学の分野からの受賞ですが、テーマの詳しい内容はここでは確かめきれていません。ADEKAのお知らせに受賞の発表が掲載されています。
第35回(2022年度)
学生部門の文部科学大臣賞は、東京工業大学 工学院の博士課程2年だった李恒さんです。
社会人部門の経済産業大臣賞は、情報通信研究機構の主任研究員、田仲正弘さんらが受けました。テーマは、たくさんのコンピューターを必要とする大規模な深層学習を手軽に実現できるフリーソフトウェア「RaNNC」の開発です。
深層学習とは、AIに大量のデータを学ばせる手法のことです。規模が大きくなると1台のコンピューターでは足りず、何台にも作業を分けて受け持たせる必要があります。その分け方を自動で引き受けてくれるのが、このソフトウェアの役割だと理解するとわかりやすいでしょう。
この回は優秀賞の顔ぶれも確認できます。
- フジテレビジョン賞:森竣祐さん(東北大学大学院 博士課程3年)
- ニッポン放送賞:吉田光輝さん(慶應義塾大学大学院 研究員)
- 産経新聞社賞:本間雅登さんら(東レ)
第31回(2017年度)と第29回(2015年度)
第31回の文部科学大臣賞は東京大学大学院 工学系研究科の佐野航季さんです。経済産業大臣賞は日本電気株式会社の先崎健太さんらが受けました。
第29回の文部科学大臣賞は東京大学大学院 薬学系研究科の乘本裕明さんです。経済産業大臣賞は江崎グリコ株式会社の田中智子さんらで、当時は「企業・産学部門」という名前でした。
食品メーカーが最優秀賞に並んでいるのは、意外に感じる方も多いかもしれません。「先端技術」が電機や情報通信の会社だけのものではないことを、この回はよく示しています。
受賞テーマから見える技術の流れ

確認できた受賞テーマを分野ごとにまとめると、次のようになります。
分野別に見た主な受賞テーマ
ここ数年の最優秀賞を並べると、AIと通信、半導体が目立ちます。社会全体で関心が高まっている分野と重なっているのは、偶然ではないでしょう。
一方で、医工学や材料、薬学の名前もあります。この賞は特定の業界の賞ではなく、分野をまたいで「独創性」を見る横断的な表彰だと言えます。
組織に目を向けると、NECは第31回と第38回の2度、経済産業大臣賞に名前があります。学生部門では、第29回と第31回が続けて東京大学大学院の受賞でした。ただし、確認できた回は一部です。この数字だけで「どこが強い」と結論づけるのは控えたほうがよいと考えています。
歴代受賞者を自分で確かめる方法
ここに載せていない回を調べたいときは、主催者の公式情報にあたるのがいちばん確実です。先端技術大賞の公式サイトの受賞者ページには、回ごとに学生部門と社会人部門の受賞者が載っています。
受賞者を調べるときの確認ポイント
私が取材でいつもやっているのは、公式の受賞者ページで名前と回を押さえたあと、受賞した組織の発表で技術の中身を読む、という二段構えです。公式ページは一覧性に優れていて、組織の発表は研究の背景に詳しい。役割が違うので、両方を見るとかなり立体的になります。
表彰式の様子
表彰式は例年、明治記念館などの会場で開かれてきました。受賞者には賞状やトロフィーが手渡され、スピーチも行われます。
高円宮妃久子さまが出席されることでも知られています。第38回の表彰式にも出席されたと報じられました。皇族が臨席する場で研究が披露されることが、この賞の格の高さを物語っています。
環境分野の表彰に関心がある方は、地球環境大賞とはもあわせて読むと、技術をたたえる賞と環境への貢献をたたえる賞の違いが見えてきます。
Q&A

Q. 文部科学大臣賞の歴代受賞者をすべて見る方法はありますか
A. 主催者の公式サイトに、回ごとの受賞者ページが用意されています。全回をひとつにまとめたページではないため、知りたい回を順に開いていく形になります。この記事の表は、筆者が確認できた回に限った抜粋です。
Q. 学生部門と社会人部門は何が違いますか
A. 学生部門は大学や大学院の学生の研究が対象で、最優秀賞は文部科学大臣賞です。社会人部門は企業や研究機関の研究が対象で、最優秀賞は経済産業大臣賞です。第29回のころは「企業・産学部門」と表記されていました。
Q. 第39回の受賞者はもう発表されていますか
A. 第39回(2026年度)まで受賞者が発表されています。詳しい内容やそれ以降の回の開催状況は、最新の情報を主催者の公式サイトで確かめてください。
Q. 環境技術も受賞の対象になりますか
A. 分野を限定した賞ではなく、通信やAI、半導体、医工学、材料、薬学など幅広いテーマが選ばれてきました。第37回の省電力チップレット集積のように、省エネにつながる技術も受賞しています。環境への貢献そのものを表彰する賞としては、地球環境大賞もあります。
おわりに
大事な点をあらためて整理します。
先端技術大賞の頂点は、学生部門の文部科学大臣賞と社会人部門の経済産業大臣賞です。この記事で詳しく取り上げた第38回では、6Gの無線機の超小型化と、長時間映像から要約動画を作るAI技術が選ばれました。受賞テーマは通信やAIだけでなく、半導体、医工学、材料、薬学にまで広がっています。
歴代の受賞者を調べるときは、回数と年度を各回の公式ページの表記どおりに扱うこと。これだけで、引用の正確さはずいぶん変わります。
受賞テーマをたどることは、日本の研究開発がどこへ向かっているかをのぞくことでもあります。環境技術の受賞例に興味がわいた方は、地球環境大賞の受賞企業一覧と並べて眺めてみてください。次の回にどんな技術が選ばれるのか、外から見守る楽しみがまたひとつ増えるはずです。


